★韓国の強さの原点
2週間、楽しませてくれたバンクーバーオリンピックも閉幕。「氷上のチェス」と言われるカーリングの奥深さを初めてゆっくりと拝見しました。パシュートというスケートもなかなか面白く、20ミリ秒に泣いた決勝を見ることができました。パシュートは英語のpursuit(追跡する)で、最終走者のゴールを競うというのも良く考えられた競技と思います。
バンクーバーでの韓国の金メダル6個はカナダ、ドイツ、米国、ノルウエーに続く5位、スケートでは韓国勢の強さを見せつけられました。
ちょうど1年前はWBCで原ジャパンと韓国チームの死闘に日本中が湧き立っていました。
決勝戦の内川の好捕とイチローのワンバンドするようなボールをファールにする執念が無ければ多分負けていました。
実は韓国と激しく争っているのはスポーツだけではなくビジネス、技術開発の世界でも同じで、しかも日本が負ける場面が増えてきました。
昨年12月にアブダビ首長国連邦(UAE)が、アラブ諸国初となる原子力発電所を韓国電力公社を中心とする韓国企業連合に発注することを決めました。発注額は運転支援費用を含め400億(約3兆6000億円)の巨額です。
日立製作所とゼネラル・エレクトリック(GE)を中心とする日米企業連合は敗退し、日本の官民
に衝撃が広まりました。
ドバイショックの発信源のドバイに今年1月に完成した820mの世界一の超高層ビル「ブルジュ・ドバイ」は三星グループを中心に建設されました。(左写真)
電子機器の分野でも事態は深刻で、リーマンショックの影響を強く受けた09年7〜9月期の営業利益はサムスンが日本円で約3260億円に対して、パナソニック、日立製作所など国内大手9社の合算営業利益は1519億円。9社が束になってもサムスンの半分に届かない惨憺たる結果でした。 DRAMでもフラッシュでも、あるいは液晶パネルでも不況期に投資を絞る日本勢に対して韓国は投資を拡大し、好況に転じた時に一気に生産力=コスト力で逆転し、差を広げてきた“勝利の方程式”が今でも生きています。
直近では三星電子が3Dテレビを2月25日に世界トップで韓国国内に発売し、続けてLG電子も3月に発売します。つい最近までの新聞記事ではパナソニックが3月に3Dテレビを世界に先駆けて米国で発売し、他社は順次追随すると書かれていました。三星電子はバックライトにLEDを用いた高画質液晶テレビに続き、「3Dテレビ=サムスン」を世界中にアピールする戦略です。
IT分野だけでなく白物家電でも韓国勢は深く浸透し、インド、アフリカや中南米の辺境の街でも「韓国製品は必ず目にする」と言われています。サムスンとLGの連結売上高に占める海外比率はともに85% (2008年)と日本企業を圧倒しています。
さらにサムソン電子が2008年10月に発表した「ビジョン2020計画」では2020年に売上げ36兆円、ITと,総合電機で世界首位を目標にしています。
韓国メーカは官民一体となって低コストで勝ち上がってきたという評価は本質を表現しているとは言えないでしょう。UAEの原発ではコスト差だけでなく、韓国内8基の原発が無事故で常に90%を超える稼働を保っている安心感や、運転から人材育成まで面倒をみるという提案も受注に大きく寄与したようです。
「日本が得意としてきたモノづくりでも韓国に抜かれたのかもしれない」というのは韓国メーカと仕事をしている知人の話ですが、素材やデバイス開発に力を入れ、デザインやサービスでも日本に追いつき、追い抜く勢いです。LGグループが有機ELの基本特許を多く保有する米イーストマン・コダックの有機EL事業を買収するニュースはその一環ですし、日本が圧倒的に強かった一眼レフ用レンズの内製化に三星が成功したと2月に発表されています。
現在サムソンの入社試験に合格するのは司法試験や外交官試験ぐらいに難しいとされ、入社試験突破を目指す専門の塾まであるそうです。熾烈な受験競争、兵役義務、入社試験を経験してきた三星社員は最強軍団と言えるでしょう。
筆者が1996年6月に初めて韓国に出張した時は、ちょうど北から工作員が潜水艦で上陸し、経済はIMF管理下に置かれ、国中がピリピリしていたのを強く覚えています。日本は韓国の戦略や文化についてもっと本気で学ぶ必要があります。韓国担当のビジネスマンでも意外に韓国の家庭まで入り込めた人は少ないと思います。
不況で企業のスポーツクラブが廃止に追い込まれる日本と、伸びる勢いの韓国の強さの差をバンクーバーで見た思いです。 今の韓国との技術開発やビジネスは、同じアイスレーンを反対側から走り出し、どちらが先頭かわかりにくいパシュートに似ている感じがします。
日本はお隣の国の戦略や意思決定の構造など、もっと知る努力が必要と思われます。
坂井公一